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遺言執行者の「復任権」とは、遺言執行者が自らの責任において、
第三者を復代理人として選任し、
遺言執行に関する事務の全部又は一部を委ねることができる権限をいいます。
復代理人としては、弁護士、司法書士、行政書士等の専門家が選任されることが一般的です。
遺言執行者は、預貯金の解約払戻し、不動産の名義変更、相続財産目録の作成など、
遺言内容を実現するための法的義務を負います。
しかし、これらの事務を必ずしもすべて自ら行う必要はなく、
復任権を行使することによって、専門家の支援を受けながら手続を進めることができます。
令和元年(2019年)6月30日以前の旧法では、
遺言執行者は原則として第三者に任務を委ねることができず、「やむを得ない事由」がある場合に限って復任が認められていました(旧民法第1016条第1項本文)。
しかし、実際には遺言執行者として指定される者が必ずしも法律知識を有しているとは限らず、相続人等が指定されることも少なくありません。
また、遺言執行の内容が複雑であったり、法律問題を含んでいたりする場合には、
遺言執行者本人のみで適切に事務を遂行することが困難なケースもありました。
このような事情から、遺言執行者についても法定代理人の場合と同様に、
一定の範囲で第三者への委任を認めるべきであるとの議論が行われました。
その結果、改正民法では、法定代理人に関する民法第105条と同様の考え方を採用し、
遺言執行者に広く復任権を認める制度へと改められました。
令和元年(2019年)7月1日の民法改正により、
遺言執行者の復任制度は大きく変更されました。
(1)復任の要件
①改正前民法の取扱い
改正前民法第1016条第1項では、復任は原則として禁止されていました。
例外として、
・遺言書に復任を許諾する旨の記載がある場合
・病気その他のやむを得ない事由がある場合
に限り、第三者への委任が認められていました。
②改正民法の取扱い
現行民法(改正民法)第1016条第1項では、復任は原則として自由となりました。
そのため、遺言書に復任許諾の記載がなくても、また、やむを得ない事由がなくても、
遺言執行者は自らの判断で復代理人を選任することができます。
もっとも、遺言者が遺言書において明確に復任を禁止している場合には、その意思が優先されるため復任は認められません。
(2)「やむを得ない事由」の役割と責任の違い
改正民法では復任自体は自由となりましたが、「やむを得ない事由」の有無は、
復任後に遺言執行者が負う責任の範囲を決定する重要な基準となっています。
①やむを得ない事由がない場合
遺言執行者が自己の裁量によって復任した場合には、復代理人の行為について自己の責任を
負います。そのため、復代理人に業務上の過失があった場合には、遺言執行者自身に選任や監督の落ち度がなくても、相続人等に対して責任を負う可能性があります。
②やむを得ない事由がある場合
高齢、病気、遠方居住その他の事情により、遺言執行者本人が事務を行うことが困難な場合には、「やむを得ない事由」がある復任として扱われます。
この場合、遺言執行者が負う責任は、復代理人の選任及び監督に関する責任に限定されます。
したがって、復代理人の選任や監督について相当の注意を尽くしていれば、
復代理人が独自に起こした過失についてまで、責任を負うものではありません。
このように改正民法は、復任の自由度を大きく拡大する一方で、
裁量による復任については重い責任を課す仕組みを採用しています。
実務上特に重要なのは、復任権について、どちらの法律が適用されるかという点です。
遺言執行者に関する改正事項の多くは「相続開始日」を基準としていますが、
復任権については、例外的に「遺言書の作成日」が基準とされています。
(1)令和元年(2019年)6月30日以前に作成された遺言書
改正前民法第1016条が適用されます。
そのため、
① 遺言書に復任許諾の記載がある場合、 又は
② 遺言執行者にやむを得ない事由がある場合
のいずれかに該当しない限り、原則として復任は認められません。
(2)令和元年(2019年)7月1日以降に作成された遺言書
改正民法第1016条が適用されます。
そのため、遺言書に復任禁止の定めがない限り、遺言執行者は特段の事由がなくても、
自らの責任において自由に復代理人を選任することができます。
なお、このように適用基準が相続開始日ではなく遺言作成日とされているのは、
遺言者が遺言作成当時の法制度を前提として意思表示を行っているためです。
遺言作成時の法的前提に対する遺言者の信頼を保護し、
その意思を不当に害しないよう配慮する観点から、このような経過措置が設けられています。
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