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「共同相続人間の担保責任」対策

目 次

「共同相続人間の担保責任対策」とは
2|瑕疵を含む可能性が高い遺産は “ 相続不動産 ”
3| “相続される不動産”に含まれる“主な瑕疵”とは 
4|境界未確定から生じる「境界紛争」
  4-1|境界紛争とは
  4-2|対処法① ー筆界特定制度ー
  4-3|対処法② ー境界確定訴訟ー
5|越境から生じる「時効による所有権喪失」
  5
-1|不動産における“越境”とは
  5-2|所有権を侵害する“主な越境物”とは
  5-3|取得時効の完成で“所有権が喪失”する

  5-4|所有権喪失を阻止する方法① ー物理的な解消ー
  5-5|所有権喪失を
阻止する方法② ー覚書の締結ー
  5-6|覚書の注意点① ー再度の取得時効の完成ー
  5-7|
覚書の注意点② ー第三者承継の効力ー
6|「再建築不可」による財産価値の毀損
  6-1|再建築不可・不動産とは
  6-2|再建築不可・不動産の具体例① ー“旗竿地”の接道間口が不足ー
  6-3|再建築不可・不動産の具体例② ー“袋地”で道路に面していないー
  6-4|再建築不可・不動産の具体例③ ー“建築基準法上の道路”に面していないー
  6-5|再建築不可・不動産の具体例④ ー敷地と道路の間に“水路”があるー
7|その他、不動産に潜む瑕疵
  7-1|民法で定める「所有権」と「所有権の及ぶ範囲」とは
  7-2|不動産に潜む瑕疵① ーブロック塀(被越境、倒壊リスク)ー
  7-3|不動産に潜む瑕疵② ー隣地からの「排水流入」ー
  7-4|不動産に潜む瑕疵③ ー隣地所有者からの「囲繞地通行権」の主張ー
  7-5|不動産に潜む瑕疵④ ー上空からの被越境物(配電線、電柱トランスなど)ー
  7-6|不動産に潜む瑕疵⑤ ー地中埋設物ー 
8|終活でやっておくべきこと

1.「共同相続人間の担保責任対策」とは

「共同相続人間の担保責任」とは、遺産分割によって、
ある相続人が瑕疵(かし)のある相続財産を取得したとき、
その瑕疵による損失分は、他の共同相続人全員が、実際に
受け取った具体的相続分に応じて負担することになります。

瑕疵とは、法律上の何らかの「欠点」や「欠陥」のことで、
「瑕疵がある状態」とは、本来あるべき品質や数量などが
備わっていない状態
のことをいいます。

例えば、次のようなケースをさします。

(1)財産の全部又は一部が、実は他人の所有であった
(2)財産の数量が不足していた
(3)財産の一部が滅失していた
(4)財産に用益権や担保権など他人の権利による制限があった
(5)財産である債権の債務者が無資力であった
(6)財産に隠れた瑕疵があった

民法では、
分割された遺産に瑕疵があった場合、相続人間の衡平を図るため、次のように規定しています。

◆民法第911条(共同相続人間の担保責任)
 「各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて
  担保の責任を負う。」

◆民法第912条第1項(遺産分割によって受けた債権についての担保責任)
 「他の共同相続人が遺産分割によって受けた債権について、各共同相続人はその相続分に応じて、
  分割時における債務者の資力を担保する。」

◆民法第913条本文(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)
 「担保の責任を負う共同相続人の中に償還する資力のない者があるときは、その償還することが
  できない部分は、求償者及び他の資力がある者が、それぞれの相続分に応じて分担する。」

2.瑕疵を含む可能性が高い遺産は “ 相続不動産 ”

遺産の中で、特に瑕疵を含む可能性が高いのが不動産です。

不動産は、四方を道路や他人に囲まれて接しているため、
土地の境界、越境物、通行などをめぐって主張がぶつかり合う
ことも少なくありません。

その結果、常に紛争へ発展する可能性を孕んでいます。

瑕疵の多くは、相続してから売却や建替えのために不動産会社や建築士に相談した時点で、さまざまな不具合に初めて気づくことになります。

そうなると、当然あるべき価値の棄損から、共同相続人間の担保責任の問題が浮上してきます。

 3.相続される不動産に含まれる“主な瑕疵”とは 

不動産に含まれる瑕疵には、次のようなものがあります。

◆境界未確定
⇒隣地と境界紛争となり、土地面積が減る可能性がある。

◆越境(被越境)
⇒越境されている部分の土地に取得時効が成立して、
 隣地側に、土地の一部を合法的に奪われる可能性がある。

◆再建築不可
⇒建築基準法の接道義務を満たしていない場合、建て替えや一定規模のリフォームができなくなり
 建物の老朽化が進行して、やがて「負動産(持っているだけで負の財産)」となる。

◆倒壊リスクが高いブロック塀がある
⇒ブロック塀の補強が不十分(控え壁が無い、鉄筋が入っていない)
⇒隣地側や道路側にブロック塀があれば、倒壊することで人や物に損害を与えてしまう

◆隣地から排水流入がある
⇒敷地内に第三者の権利が存在することで被越境となる。売却時に支障となる。

◆囲繞地通行権を隣地から主張される
⇒囲繞地通行権とは、ほかの土地(囲繞地)に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者が、
 囲んでいる囲繞地を通行できる権利のことです。遺産に囲繞地が含まれ、袋地所有者が通行を
 主張する場合、囲繞地の通行条件を巡り、相続人と袋地所有者とで揉める可能性があります。
 また、囲繞地通行権は法的に保護されているため、通行を拒否できず、通行部分の使用収益は
 制限される
ことになります。 

◆地中埋設物がある
コンクリートやアスファルトの破片、瓦などの建築廃材、コンクリート基礎、排水管、井戸、浄化槽
 などが埋まっている場合、土地の売却や土地活用ができないため、収去する必要があります。

◆地中越境物がある
隣地側から境界線を越えた水道やガスの埋設管、隣地側ブロック塀の基礎部分の地中越境。
 ブロック塀の基礎には、その形状によって「I型」、「逆T型」、「L型」などがあります。
 売却時に問題となるため、敷地外に収去する必要があります。

4.境界未確定から生じる「境界紛争」

4-1 境界紛争とは

土地の境界とは、自分が所有する土地の範囲を示した線のことで、自分の土地と他人の土地との境目(隣地境界)や道路との境目(道路境界)のことをいいます。

境界には「筆界」と「所有権界」があり、境界紛争とは、土地の境界線が不明確であることや隣接する土地との境界に関する認識の相違から生じるトラブルを指します。

筆界とは、登記された土地の境界のことで「公法上の境界」と呼ばれます。明治時代の地租改正によって作成された土地台帳付属地図が公図となり、これが筆界になっています。
筆界は、法務局に備え付けられた公図や地積測量図で確認することができます。

所有権界とは、土地の所有者同士の所有権の範囲を示す線で「私法上の境界」と呼ばれます。「ここまでが私の土地ですよ」というように、お互いが所有していると考える範囲と範囲の境目が所有権界になります。現地では、ブロック塀や境界標で示されています。

両者の違いは、「筆界」がお隣さん同士の話し合いで勝手に変更できないのに対して、
「所有権界」は変更することができるということです。
そして、
土地の境界で揉める原因は、筆界と所有権界の不一致により発生することになります。

4-2 対処法① ー筆界特定制度ー

筆界特定制度とは、2006(平成18)年に導入された制度で、法務局(筆界特定登記官)が外部の専門家(土地家屋調査士等)で構成される筆界調査委員の意見を踏まえ、
現地における土地の筆界の位置を特定します。

筆界が特定されるまでの時間は、半年から1年程度と
されています。

留意点として、
筆界特定制度による判断には既判力がないため筆界特定の結果に納得できない場合は、その後、境界確定訴訟で争うことになります。

ただし、境界確定訴訟に移行した場合でも、筆界特定の結果が考慮されるため、筆界特定制度による結果を判決が変更することは、かなり少ないとされています(変更の場合もあります)。

 

4-3 対処法② ー境界確定訴訟ー

境界確定訴訟は、境界に関するお隣同士の争いを解決するための訴訟手続きです。裁判所が当事者双方の主張を聞いたうえで、裁判所は各主張に拘束されることなく、客観的な視点で独自に境界を決定することになります。

判決が出るまでの期間は約2年程度とされていますが、
境界が確実に決まることが境界確定訴訟のメリットです。

終活として、下記2点について実施するようにしましょう。
●境界未確定の土地がある場合、境界確定を済ませておく
●隣地との境界確定がスムーズにできない場合、境界の揉めごとを相続人に残したくないので
 あれば、各制度(筆界特定制度など)を利用して、自分の代で決着をつけておく

5.越境から生じる「時効による所有権喪失」

5-1 不動産における“越境”とは

越境」とは、自分の所有物や建物の一部が隣の敷地や
空間に侵入している状態を指します。

反対に、隣の敷地から自分の土地にものが侵入している
場合は「被越境」と呼びます。

不動産における越境は、建物や構造物、樹木などが隣地の境界線を越えて設置されている状態を意味します。

越境は、程度の大小があるにせよ、不動産取引では必ず問題になるテーマであり、
また不動産のプロでも見落としやすい箇所でもあるので注意が必要です。

5-2 所有権を侵害する“主な越境物”とは

越境物には、目に見えるものもあれば、地面の下に埋まっているものも含まれます。例えば、次のようなものです。

◆建物の屋根や軒先、庇(ひさし)、カーポート屋根
◆ブロック塀やフェンスと基礎部分、土間コンクリート
◆樹木の枝葉や根
◆給排水管やガス管などの地中埋設管
◆配電線や引込線、電話線、通信配線など上空架線、
 電柱上部のトランス、金属アーム

一般的に、不動産売買で問題となる被越境は、越境物の出幅が境界線から1cm以上を問題とするケースが多いですが、買手によっては、ミリ単位の被越境も是正を要求される場合もあります。

そのため、不動産取引を仲介する不動産のプロでも越境の見落とし見誤りから、取引後に越境が原因で紛争になるケースも少なからずあります。

目視確認では限界があるため、通常は土地家屋調査士に測量・境界確定作業を依頼する際に、
越境図面を作成してもらうなど、測量器具による越境確認を依頼することになります。

5-3 取得時効の完成で“所有権が喪失”する

隣地からの越境があったとしても、
「生活に支障がなければそのまま放置してもよいのでは」
と思うかもしれませんが、それは間違いです。

被越境の状態を放置すると、越境物の所有者(占有者)に取得時効が成立することで、土地の所有権を失うことがあります。

取得時効とは、たとえ他人の不動産であっても、一定期間、
不動産を占有し続けることで、その不動産の所有権を取得することができる制度です。

取得時効には、占有期間が10年間で完成する「短期取得時効」と20年間で完成する「長期取得時効」があります。これらの取得時効について、民法は以下のように規定しています。

◆第162条(所有権の取得時効)
Ⅰ 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、
  その所有権を取得する。
Ⅱ 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、
  その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

上記条文のとおり、短期取得時効と長期取得時効に共通するのは、以下の3つの要件です。
①「所有の意思をもって(自分のものとして)
②「平穏に(暴力などの争いがなく)
③「公然と(隠すことなく)

さらに、短期取得時効の完成には、上記3つに加えて
実際に占有を開始した時点で自分の不動産であると信じ、そう信じることについて過失がないこと」が要件になります。

短期では10年、長期でも20年で取得時効が完成すると、占有者が時効の援用により越境物が占有していた部分の所有権を取得し、本来の所有者が所有権を失うことになります。

5-4 所有権喪失を阻止する方法① ー物理的な解消ー

被越境による時効完成の懸念を将来に向けて払拭するには
被越境部分の解消(無くしてしまう)一択となります。
具体的には、敷地内から消すために
・削る(斫る・切断する)
・撤去する
・取り換える

の3つの方法が、実務上、多く実施されます。
例えば、ブロック塀の基礎土間コン、樹木の枝木などは、
削る・斫る・切断(剪定)するに該当します。

但し、勝手に削る等はできないので相手の同意が必要になりますが、被越境の解消とはいえ、
屋根の一部などは削ることで雨漏りの原因にもなるため、別の方法での対応となります。
(同意してもらえません)

また、室外機物置等の移動が可能なものは、敷地境界線の外側に押し出すことになります。
その他、上下水道ガス埋設管が地中越境している場合は、一旦撤去し、別ルートで引き直すことで撤去できます。

他にも、雨樋やブロック塀そのものが境界線を跨いで越境してきている場合、雨樋はサイズが
一廻りの小さなものに取り換える
ことで越境解消できたり、ブロック塀は一旦解体撤去し、
敷地外(隣地の敷地内)に積み直すことで越境を解消することができます。

5-5 所有権喪失を阻止する方法② ー覚書の締結ー

所有権喪失を阻止する優先順位は、第一は「物理的な解消」ですが、現実的に解消できない(削れない、撤去できないなど)場合は、時効を更新させる必要があります。

時効の更新とは、時効の中断事由が発生することで、それまでカウントされた時効年数がリセットした上で、改めてゼロからカウントされることになります。

時効の中断事由となる代表的なものが「承認」です。
承認とは、自分の所有物が「境界線を越えて、隣地側に越境している」ことについて認める
ことです。

実務上では、越境物覚書を双方で締結することで、隣地側の承認を取付け、時効を更新します。

5-6 覚書の注意点① ー再度の取得時効の完成ー

越境物覚書を双方で締結して時効の更新がされると、それまでの時効期間の進行が一旦リセットされ、またゼロから時効期間が数え直されることになります。

注意すべきは、時効の更新は単にリセットであって、時効自体が無くなるわけではないということです。

例えば、
越境物覚書を締結すると、越境の存在を承認することで時効が一旦中断し、悪意(他人の所有権侵害を知っている)の長期時効(20年間)がリスタートしますが、時効期間満了前に思い出し、改めて覚書を締結しないと20年目に時効が完成し、所有権を喪失することになります。

不動産を購入する際、不動産会社から重要事項説明を受けますが、ほとんどの場合、越境事実締結した覚書を継承する旨の説明しかなく、20年目の時効完成で所有権喪失リスクについて説明するケースは稀なため、購入者側も自己防衛として注意が必要です。

5-7 覚書の注意点② ー第三者承継の効力ー

越境物覚書には、第三者承継の条項が記載されています。
これは、
覚書を締結した当事者間での約束事を当事者から
第三者へ移転させることを指し、地位承継ともいいます。

例えば、不動産の売買では、売主が第三者と交わした
「越境」や「地役権」に関する覚書の内容などについて、
新しい買主(第三者)が引き継ぐケースが該当します。

覚書の内容を第三者に引き継がせるには注意点があります。

それは覚書の有効性です。 覚書には当事者間で取り決めた内容を第三者に承継させる旨を記載していますが、基本的に作成した覚書は当事者間のみで効力を持つため、新しい所有者(第三者)がその内容に当然に拘束されるわけではありません

仮に、
第三者への承継を確実にするために「土地の所有権を移転する場合は、本覚書の内容を新所有者に承継させなければならない」といった条項を定めることもありますが、この条項があっても、新所有者がその義務を承継するか否かは、新所有者の同意にかかってきます。

6.「再建築不可」による財産価値の毀損

6-1再建築不可・不動産とは

再建築不可とは、建物を新しく建築できないことで、
再建築不可・不動産は再建築できない不動産を指します。

再建築不可となる要因はいくつかありますが、それらの
要因を解消しなければ、通常の土地利活用はできません。

たとえば、現況が更地の場合建物を建てることができず更地のままの保有を強いられたり、建物がすでに建っている場合既存の建物が老朽化していても建て替えできず、一定規模以上のリフォームもすることができません

また、そんな土地なので売却するにしても、再建築不可では使い道がかなり限定されるため、
売買価格は相当低くなります。

結果、売却も建て替えができず、老朽化した建物を放置すると、近年の異常気象により、
建物の一部が飛散して人や物に損害を与えたり、地震で建物が倒壊したり傾くことになります。

このような「負動産」が相続財産に含まれるとしたら、遺産分割協議で欲しがる相続人はいるでしょうか?多くの場合、欲しがるどころか押し付け合って揉める(争族)ことになります。

更に、相続人間で「再建築不可」の不動産であることの情報が共有されず
或いは「再建築不可」であることを誰も認識せずに相続が発生し、相続人全員が普通の不動産であると思って遺産分割がされた場合共同相続人間の担保責任の問題が生じます。

不幸にも、再建築不可物件を相続した相続人からすると、
当然あると思っていた財産価値が棄損している」ことで相続人間に不平等が生じるからです。

6-2 再建築不可・不動産の具体例① 
     ー“旗竿地”の接道間口が不足ー

旗竿地とは、土地の形状を「旗」と「旗竿」になぞらえた土地のことで、「路地状敷地」ともいいます。

路地状敷地は、建物が建てられる「有効宅地部分」と、
有効宅地部分と道路をつなぐ「路地状部分」から成り立ちます。

建築基準法上の接道要件を満たすためには、
接道間口が原則2m以上必要となります。
ただし、各自治体の条例では、路地状部分の奥行距離や建築する建築物の用途(共同住宅など)によって「必要間口を3m以上」とするなど、より広い間口を基準とする規定を設けているため注意が必要です。

【終活としての対策】
接道義務を満たすための必要間口が足りていない場合、不足分について、
隣地から「買取るか、借りるか、敷地の一部を交換するか」などの交渉が必要になります。

また、隣地所有者の同意を得たうえで敷地設定※1をすることでも建て替えが可能になる場合があります。

※1  敷地設定とは、再建築不可物件などの建て替えのために、他人の土地を自分の敷地として
  建築確認申請すること。建築基準法では、隣地所有者の同意なしでも建築確認申請は可能で
  あるが、後日隣地とのトラブルを回避するため、実務上は事前同意を取ることが多い。

 

6-3 再建築不可・不動産の具体例②
     ー“袋地”で道路に面していないー

袋地とは、他の土地に囲まれて公の道路に接していない
土地で接道義務を満たしていない土地を指します。

対策としては、幅2m以上で、隣地を
・買取るか
・敷地の一部を交換するか
・囲繞地通行権を主張するか
・通行地役権を設定するか

など、
隣地との交渉が成立することで接道義務を満たせます。

通行地役権の設定では、便益を受ける自分の土地を「要役地」、便益を提供する他人の土地(隣地)を「承役地」といいます。

囲繞地通行権は、法律上当然に認められる権利ですが、
通行地役権は、要役地と承役地の双方の所有者による契約で設定できることになります。

6-4 再建築不可・不動産の具体例③
     ー“建築基準法上の道路”に面していないー

「建築基準法上の道路」とは、建築基準法第42条に規定された道路で、建築基準法第43条(接道義務)では、
「4m以上の建築基準法上の道路に2m以上接しなければならない」と定められています。

紛らわしいのが、一見舗装されていて道路に見えても
建築基準法上の道路とは限らないという点です。
そのため、前面道路が建築基準法上の道路か否か、
正確に判別するには、市の道路課や建築指導課で確認する必要があります。

【終活としての対策】
前面道路が私道の場合、特定行政庁(県、市など)から「位置指定道路の認可」を得ることで、
建築基準法上の道路と認められ、接道義務を満たすことになります。位置指定道路の認可を受けるためには、「幅員4m以上、道路の形態や境界が明確、側溝等排水設備がある、通り抜け道路、隅切りを両側に設ける」などの技術的要件に加えて、私道権利者全員の承諾が必要になります。

その他、条件を満せば「43条2項道路※3」の許可を受けて建築するという別の方法もあります。

※3   43条2項道路:本来は道路とみなされないが、建築審査会の同意を得て、特定行政庁が
  交通上・安全上・防火上および衛生上支障がないと認めたもの。都度審査する再建築不可の
  救済特例措置。

6-5 再建築不可・不動産の具体例④
     ー敷地と道路の間に“水路”があるー

土地と道路との間に水路がある場合、一般的に水路などは行政が管理しているため「水路部分は道路ではない」と
判断されると接道義務を満たしていないことになります。

水路には、外観上見える開渠(かいきょ)だけでなく、
地下に埋設して蓋がされて見えない暗渠(あんきょ)も
あるので、公図上で「水」の表示があるような場合は注意が必要です。

【終活としての対策】
水路を管理する市町村より占用許可を受けて、出入り用の橋を架けることで、接道義務を満たすこともあります。但し、水路占用で接道義務を満たすか否かの判断は、自治体によって異なる
ため注意が必要です。また、占用料も自治体によって有料と無料の場合があります。

7.その他、不動産に潜む瑕疵

7-1 民法で定める「所有権」と「所有権の及ぶ範囲」とは

民法では、所有権と土地所有権の及ぶ範囲について、
次のように規定しています。

----------------------------------------------------------------------------------◆民法第206条(所有権の内容)
「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の
 使用、収益及び処分をする権利を有する。」

◆民法第207条(土地所有権の範囲)
「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に
 及ぶ。」

----------------------------------------------------------------------------------

条文によると、所有権とは、物を全面的・排他的に支配する権利で、土地の所有権の範囲は、
土地の地下上空にも及ぶことになります。

 つまり、当事者間で契約や合意がないのに、自分の所有権の範囲内に他人の所有物や権利が存在する場合、所有物を排他的に支配する権利は侵害され、完全所有権としての「当然あるべき価値を有していない」ことになります。

7-2 不動産に潜む瑕疵①
         ーブロック塀(被越境、倒壊リスク)ー

※クリックで拡大します

ブロック塀の相隣関係に関連するリスクは2つあります。

①被越境(隣地からの越境)

境界線に沿って設置されたブロック塀は、どこ家にもありますが、一見、ブロック塀が隣地内に納まっているように見えて、よく見ると真っすぐ設置されていなかったり
境界線を越えて隣地側に反り傾いていたりすることがあります。

外構工事は職人による手作業なので、単に職人の力量による差であったり、
老朽化や構造上の問題(鉄筋が十分に入っていない)であったり、要因がさまざまです。

対策として、
原則、ブロック塀の積み直し又は越境部分の土地の買取り隣地に請求する。
・積み直しや買取りが難しい場合、将来撤去する旨の覚書を締結する。
などが考えられます。

②倒壊リスク

ブロック塀がある場合は、越境のみならず、常に倒壊リスクに注意を払う必要があります。
ブロック塀には、高さ1.2m(目安:ブロック6段)を超える場合、水平方向へ間隔3.4m以下ごとに「控え壁」の設置が義務づけられています。

控え壁とは、直角方向に突き出した補強用壁のことで、地震や風などブロック塀に加わる横方向の力に対して倒壊を防ぐ役割がありますが、ブロック塀が規定の高さを超えているにもかかわらず、控え壁が無かったり、あっても適切な間隔ごとに設置されていない現場を散見します。

また、石垣の上に設置されたブロック塀などは、下の石垣まで鉄筋が入らず安定性を欠いていたり、表面にひび割れ破損があれば、雨水の侵入から中の鉄筋が錆びて倒壊リスクを高めることになります。
このようなブロック塀が隣地側にあれば、こちら側に倒壊する恐れがあり、逆に、こちら側にあれば隣地側への倒壊、道路沿いなら通行人に被害を与え損害賠償請求を受ける恐れがあります。

7-3 不動産に潜む瑕疵② ー隣地からの「排水流入」ー

民法第214条は「土地の所有者は、隣地から水が自然に
流れて来るのを妨げてはならない」と定めています。

これは、水が高い場所から低い場所へ流れるという自然の性質に基づき、降雨などによる自然な排水を妨げてはならない、という趣旨です。
この規定は、隣接する土地の所有者間のトラブルを調整するために設けられた「相隣関係」のルールの一つです。

しかし、自然の摂理ではなく、人工的に作られた構造物によって流水の進路を変えた結果、隣地に流入した場合、越境となります。相隣関係でよく散見するのは、境界線付近に排水桝があり、その排水桝に隣地からの排水が流入していることがあります。

この場合、他人の権利が敷地内に付着して、通常の所有権に基づく使用収益が妨げられているので、排水流入の状態を是正する必要があります。

【終活としての対策】
・現状の排水管を閉栓し、新たに前面道路に埋設されている下水本管に排水管を引き直して
 もらうよう請求する。

7-4 不動産に潜む瑕疵③
      ー隣地所有者からの「囲繞地通行権」の主張ー

囲繞地通行権とは、他の土地(囲繞地)に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者が、囲んでいる囲繞地を通行できる権利のことで、民法第210条では「公道に至るための他の土地の通行権」として定めています。

その特徴は、囲繞地通行権は法律により当然に発生し、
通行に際して囲繞地所有者の承諾は不要であることです。

そのため、相続財産に囲繞地が含まれる場合に、袋地所有者から囲繞地通行権を主張されると法的には拒否できず、通行する位置や通行する幅、通行料など「通行条件」を巡り、相続人と袋地所有者の間で揉める可能性があります。

【終活としての対策】
囲繞地通行権や通行地役権について袋地所有者と協議し、合意書や通行地役権設定契約書の作成など、負担や制限の内容を明確にして相続人に引き継ぐ準備をしておく必要があります。

7-5 不動産に潜む瑕疵④
  ー上空からの被越境物(配電線、電柱トランスなど)ー

土地の所有権はその上下に及びます。しかし、越境物確認を現地で行うと、ついつい見落としがちで頻繁に存在するのが上空架線による被越境です。

上空架線による被越境物には、
電力会社の配電線や引込線、電話線(NTT)、通信配線(J:COMなど)、電柱上部のトランス、金属アームなどがあります。

上空架線の越境物確認をする際、目視で判明すれば問題ないですが、越境状況が微妙な場合は、専門機器を使わないと正確に判明しない場合もあります。

【終活としての対策】
上空架線の被越境が売買に影響する場合は、各社に移設を依頼することになります。

7-6 不動産に潜む瑕疵⑤ ー地中埋設物ー

地中にある瑕疵としては、建築廃材などの地中障害物、
水道・ガス管などの地中越境物などがあげられます。

(1)建築廃材などの地中障害物

現在は駐車場や更地でも、以前その場所に建物が建って
いた場合、地中を掘り起こしてみると建材ガラなどの
地中埋設物が埋まっていることがよくあります。

地中埋設物とは、コンクリートやアスファルトの破片、瓦などの建築廃材、コンクリート基礎、排水管、井戸、浄化槽などです。

ひと昔前は、従前建物の解体時に廃棄物が発生しても、処分費用を浮かせるために敷地外に撤去せず、そのまま埋め戻すような悪徳な解体業者も少なからずいました。そのため、不動産売買で引渡前に試掘をすると、トラック数台分の撤去物が掘り出されることもあります。

相続した土地に地中埋設物が存在すると、相続後の売却時に相当な収去費用が発生したり、
売買完了後に発覚すると契約不適合責任をめぐり、買主と紛争になる可能性があります。

【終活としての対策】
地中埋設物の有無について次の調査をして、有る場合は収去しておく。
①地歴調査(昔の地図や航空写真、建築記録など)
②試掘調査(ピンポイントで数箇所を試掘する)

※試掘により、土地全体の地中埋設物の状況をある程度推測することもできます。但し、地中はすべて掘ってみないとわからないのが鉄則のため、仮に試掘でなにも出土しなくても、あくまで推測でしかありません。

(2)水道・ガス管などの地中越境物

試掘の際に、隣地からの水道やガスの埋設管、隣地側ブロック塀の基礎部分等の地中越境が判明することがあります。ブロック塀の基礎には、その形状によって「I型、逆T型、L型」などがありますが、「逆T型」の場合で地中越境が多く見られます。

【終活としての対策】
・原則、地中越境部分の解消(埋設管引き直し、基礎部分の斫りなど)を隣地側に請求する。
・地中越境の解消が物理的に難しい場合、将来撤去する旨の覚書を締結する。

8.終活でやっておくべきこと

遺産分割の結果、ある相続人が取得した財産に瑕疵がある(当然あるべき価値を有していない)とき、その損失分を、ほかの相続人全員が具体的相続分の割合で負担して、共同相続人間の衡平を図ることを目的とするのが「共同相続人間の担保責任」制度です。

そして、遺産のなかでも、瑕疵を含む可能性がとくに高いのが不動産です。
不動産に含まれる瑕疵の多くは現地で確認されるため、登記情報などの資料だけでは把握できず、
不動産の現物そのものを注意深く洞察することしか、発見の糸口はありません。

相続前にできる不動産対策は、不動産を調査することで瑕疵の有無を明らかにして、
解消(除去)できる瑕疵であれば解消し、解消が難しい場合は、別の不動産に買い替えるか、
売却して現金資産として残すなどを検討することになります。

また、どうしても不動産を手放したくない(手放せない)場合は、瑕疵の存在や内容を明らかにして、瑕疵を考慮したうえで、相続時の遺産分割を行うことになります。

-財産の「奪い合い・押し付け合い」を未然に防ぐ-
50代から始める終活「争族・不動産」対策

【目次】

第1章  相続不動産の「特定承継」対策

1-1 一般家庭こそ「相続争い」の主戦場
   ~ なぜ遺産分割は揉めるのか~

1-2 実家だけは、同居している長男家族に遺したい
  ~ 不仲の長女を抱える〈77歳・父〉が考えた相続対策~

1-3 自分亡きあと、〝内縁の妻〟に自宅を遺したい
  ~ 入籍を望まない事実婚夫婦のケース~

1-4 再婚男性・自分亡きあとは後妻の生活を守り、
    後妻亡きあとは〈先妻の子〉に全部継がせたい
  ~「後継ぎ遺贈型・受益者連続信託」による資産承継~

1-5 相続開始後~遺産分割までに生じた家賃収入の取扱い
  ~〈収益不動産がある相続〉の留意点~


第2章 相続不動産の「共有名義」対策

2-1 不動産を「共有名義」にしてはいけない理由
   ~ 不動産を共有することの本質的な問題~

2-2 相続トラブルの元、「共有名義化」を防ぐ方法
   ~ 不動産所有者が検討すべき〝4つの回避策〟~

2-3 マイホームを建てたいが、将来に「共同相続」となる懸念…
   ~ 兄から共有持分を買い取った〈55歳男性〉の決断~

2-4 共有者がネズミ算式に増えていく不動産共有の末路
   ~「不動産の共有関係」を離脱・解消する5つの方法~

2-5 「共有持分、買い取ります」
   ~ 市場価値の低い〈訳あり不動産〉をあえて欲しがる業者の〝狙い〟~


第3章  相続“負”動産の「生前処分」対策

3-1 子どもに相続させたくない「負の資産」
   ~ 売るに売れない「負動産」を手放す〝最終手段〟~

3-2 「相続土地国庫帰属制度」を使いこなす
   ~「相続以外で取得した土地」の申請方法とは~

3-3 50年放置した「地方の山林」は引き取ってもらえるのか
   ~ 国が〝引き取れる土地・引き取れない土地〟の境目とは~

3-4 「相続土地国庫帰属制度」にかかる費用は?
   ~ 表沙汰になっていない費用の実態~

3-5 「親から相続したくない」堂々1位は「不動産」
   ~ 子どもに押し付けず、終活で確実に手放す方法は~


第4章 相続不動産の「担保責任」対策

4-1 相続した財産にあとから「瑕疵」が判明するトラブル
   ~「共同相続人間の担保責任」の回避法とは~

4-2 相続した境界未確定の土地が、境界紛争に巻き込まれるリスク
   ~「境界紛争による財産価値の棄損」に対する生前予防策~

4-3 隣地からの越境物を放置した結果、取得時効が完成するリスク
   ~時効で不動産所有権を失わないための生前準備~

4-4 もし、受け継いだ実家不動産が「建て直し不可」だったら?
   ~「再建築不可による財産価値の棄損」への対処法~

4-5 不動産は「瑕疵を含む可能性が高い」遺産
   ~地上・上空・地下に潜む瑕疵の実際~

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