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遺言は被相続人が単独で作成するものであるため、被相続人にとって
最善と考えられた内容であっても、相続人の立場から見ると必ずしも望ましいとは限りません。
そのため、相続人全員が遺言内容を理解したうえで、「別の分け方の方が都合がよい」と合意した場合には、遺言とは異なる内容で遺産分割を行うことも可能です(民法第907条第1項)。
この場合、遺言執行者が存在しないときは、相続人全員の合意による遺産分割が優先されます。
これに対し、遺言執行者が存在する場合には事情が異なります。
遺言執行者は、遺言内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法第1012条第1項)、
相続人はその執行を妨げる行為をしてはならないとされています(民法第1013条第1項)。
そのため、遺言執行者が存在する場合に遺言と異なる内容で遺産分割を行うためには、
遺言執行者にも事情を説明し、その同意を得たうえで進める必要があると考えられています。
相続人以外の受遺者(遺言によって財産を取得する者)がいる場合には、
相続人全員が遺言と異なる遺産分割協議に合意したとしても、受遺者の権利を一方的に奪うことはできません。この場合の遺言執行者の対応と実務上のポイントは、次のとおりです。
(1)遺言執行者の対応
相続人全員による遺言と異なる遺産分割協議は無効であるとして、
遺言内容どおりの執行を行います。
(2)実務のポイント
相続人以外の受遺者は、遺言の効力発生と同時に、
遺贈の目的財産を取得する権利又はその引渡しを求める権利を取得しています。
遺言と異なる内容の遺産分割協議が有効に成立するためには、その財産について
処分権限を有する者全員の合意が必要です。しかし、受遺者を除外した相続人のみの合意では、受遺者の権利を侵害することになるため、そのような協議は成立しません。
したがって、遺言執行者は、相続人に対して当該協議が無効であることを説明し、
受遺者に対する遺贈手続を進めることになります。
遺言内容に相続人以外の第三者への遺贈が含まれておらず、かつ遺言執行者が就任を承諾する前に、相続人全員による遺産分割協議が成立した場合です。
この場合の遺言執行者の対応と実務上のポイントは、次のとおりです。
(1)遺言執行者の対応
①相続人全員による遺産分割協議の成立を確認する場合
・民法第1007条第2項の就任承諾通知を送る前に、
相続人全員による遺産分割協議が適法かつ有効に成立していることを確認します。
②遺産分割協議が適法に成立している場合
・就任を辞退(不承諾)します。
(2)実務のポイント
第三者の権利を害しない限り、相続人全員の合意による遺産分割協議は有効です。
そして、就任前にこの協議が適法に成立した場合には、
遺言によって実現されるはずであった法律関係は相続人全員の合意によって変更されるため、
遺言執行者として執行すべき対象が実質的に消滅することになります。
なお、就任前であれば、民法第1024条による家庭裁判所の辞任許可は不要です。
遺言内容に相続人以外の第三者への遺贈が含まれておらず、かつ遺言執行者が就任を承諾した後に、相続人全員による遺産分割協議が成立した場合です。
この場合の遺言執行者の対応と実務上のポイントは、次のとおりです。
(1)遺言執行者の対応
①相続人全員の合意内容を承認する場合
相続人全員の合意内容を自らの執行方針として取り込み、
その内容に従って執行を継続します。
②相続人全員の合意内容を承認しない場合
遺言の趣旨に反すると考えるときは、家庭裁判所の許可を得て辞任します。
(2)実務のポイント
①相続人全員の合意内容を承認した場合
遺言執行者が相続人全員による遺産分割協議を承認した場合、その協議内容を自らの執行方針として採用したことになります。したがって、口座解約や財産の分配などについても、その協議内容に従って最後まで見届ける義務を負います。
承認後に「後は当事者同士で処理してください」として任務を放置し、
その結果として紛争や損害が発生した場合には、善良な管理者の注意義務違反として、
責任を問われる可能性があります。
そのため、
最終的には民法第1025条に基づく任務完了報告を行い、任務を終了させる必要があります。
②すでに執行済みの財産がある場合
相続人全員による遺産分割協議を遺言執行者が承認した時点で、
すでに一部の財産について執行が完了している場合があります。たとえば、預貯金の解約払戻しが完了している場合や、不動産の相続登記が完了している場合です。
このような場合、
すでに適法に完了した執行手続は有効であり、原則として遡って覆すことはできません。
したがって、執行済みの財産については、その後に成立した遺産分割協議の対象外となります。
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