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相続財産の調査と管理

相続財産の調査と管理が必要な理由

遺言執行者は、就任後、すみやかに相続財産の調査及び管理に着手しなければなりません。
その理由は、遺言執行者には相続財産を正確に把握したうえで遺言を実現する責任があり、
さらに相続財産を適切に保全する義務が課されているためです。

相続財産の調査と管理は、遺言執行業務の基礎となる重要な工程であり、これを怠ると、
その後の執行手続全体に支障を来すことになります。

(1)相続財産目録の作成・交付義務(民法第1011条)

遺言執行者は、遅滞なく相続財産目録を作成し、相続人に交付しなければなりません。相続人にとって、どのような財産が存在するのかを把握することは、遺言執行の適正性を確認するための重要な権利です。そのため、相続財産の調査は、相続財産目録を作成するための前提作業として不可欠となります。

(2)遺言執行の対象財産を確定するため(民法第1012条)

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、必要な一切の行為を行う権利義務を有します。
しかし、どの財産が遺言執行の対象となるのかを把握できていなければ、
不動産の名義変更や預貯金の払戻しなどの、具体的な執行手続を進めることができません。

財産調査は、執行業務の出発点となる重要な作業です。

(3)善管注意義務による財産保全のため(民法第1012条第3項・第644条)

遺言執行者は、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負います。
調査や管理を怠ると、
・預貯金の不正な払戻し
・相続財産の持出し
・不動産の荒廃
・貴重品の紛失
などが発生する可能性があります。そのため、財産の現況を把握するとともに、
速やかに管理下に置いて保全措置を講じる必要があります。

遺言に記載された相続財産の調査

まずは、遺言書に記載された財産について、その現況や権利関係を確認します。

(1)不動産(土地・建物)

不動産については、登記内容と現況の双方を確認することが重要です。主な調査資料としては、次のものがあります。
・登記事項証明書(共同担保目録を含む)
・公図
・地積測量図
・建物図面
・固定資産税課税明細書

また、賃貸不動産については、
・賃貸借契約書
・レントロール
・入居者一覧
・敷金管理状況
なども確認しておきます。

(2)預貯金

通帳やキャッシュカード、金融機関からの郵便物などを確認し、各金融機関に対して残高証明書や取引履歴の発行を請求します。

(3)有価証券

株式や投資信託については、
・証券会社からの取引報告書
・配当金通知
・残高報告書
などを確認し、保有状況を調査します。

(4)動産

家財、貴金属、美術品、骨董品、現金などについては現物確認が中心となります。
後日の紛争防止のため、
・写真撮影
・数量確認
・保管場所の記録
を行っておくことが望ましいでしょう。高額な財産については、必要に応じて専門家による鑑定も検討します。

(5)自動車

車検証により、
・所有者
・使用者
・車台番号
などを確認します。ローン返済中の場合には、所有権留保の有無についても確認が必要です。

遺言に記載されていない相続財産の調査

遺言執行者の職務は遺言内容の実現にありますが、
実務上は、遺言に記載されていない財産についても調査が必要となる場合があります。

特に次のようなケースでは、相続財産全体の把握が重要となります。

(1)包括条項(余剰財産条項)がある場合

遺言書に
「その他一切の財産を○○に相続させる」
などの条項がある場合です。
この場合、遺言書に具体的な記載がない財産についても調査対象となります。

(2)清算型遺言の場合

不動産等を売却して換価し、負債を精算のうえ、その代金を分配する内容の遺言では、
財産全体を把握しなければ適正な分配ができません。

(3)遺留分侵害額請求が想定される場合

遺留分の算定には相続財産全体を把握する必要があります。
そのため、遺言に記載された財産だけではなく、他の財産や生前贈与の有無についても
調査が必要となります。

(4)財産の変動が疑われる場合

遺言作成から長期間が経過している場合には、
・売却
・解約
・買換え
などによって財産内容が変化している可能性があります。
そのため、現時点での財産状況を改めて確認する必要があります。

遺言に記載されていない財産の主な調査方法

(1)不動産の調査

被相続人名義の不動産を網羅的に確認するため、次の資料を取得します。

ア.所有不動産記録証明書

法務局において取得できる証明書であり、被相続人名義の不動産を一覧で確認できます。

イ.名寄帳

市区町村ごとに固定資産課税対象不動産を一覧化した資料です。未登記建物や私道などの把握にも有効です。

(2)有価証券の調査

証券会社が不明な場合には、証券保管振替機構(ほふり)に対して登録済加入者情報の開示請求を行います。これにより、口座が開設されている証券会社等を特定することができます。

(3)貸金庫の調査

貸金庫には、
・遺言書
・権利証
・現金
・貴金属
などが保管されていることがあります。

まずは、
・貸金庫利用料の引落履歴
・貸金庫カード
・貸金庫鍵
・金融機関からの通知書
などを確認し、貸金庫の存在を調査します。
貸金庫の利用が判明した場合には、金融機関に対して開扉手続を確認します。

なお、金融機関によっては、
・公正証書遺言の内容
・遺言執行者の権限の記載
・相続人全員の同意
などを求められることがあり、必ずしも遺言執行者単独で開扉できるとは限りません。

負債(マイナスの財産)の調査

相続財産の調査は、プラスの財産だけではなく、負債についても行う必要があります。

(1)負債調査が必要となる主なケース

ア.清算型遺言の場合

債務を把握しなければ、適正な清算・分配ができません。

イ.事業経営者や投資家であった場合

借入金や保証債務が存在する可能性があります。

ウ.相続人が債務の存在を懸念している場合

後日の紛争防止のためにも調査を行うことが望まれます。

(2)信用情報機関への照会

借入金等を確認するため、次の信用情報機関への開示請求が考えられます。

ア.JICC(日本信用情報機構)

消費者金融や信販会社からの借入れの確認

イ.CIC(シー・アイ・シー)

クレジットカード利用残高や割賦販売契約の確認

ウ.KSC(全国銀行個人信用情報センター)

銀行ローンや住宅ローン等の確認

もっとも、これらの信用情報機関に対する開示請求権者には、通常、遺言執行者は含まれていませんそのため、実務上は相続人の協力を得ながら調査を進めることになります。

実務上のポイント

相続財産の調査は、単に財産を探す作業ではありません。
「何を執行するのか」
「何を保全すべきか」を明確にし、相続財産目録を作成するための基礎作業です。

また、調査の過程で発見された財産や負債によって、遺言の解釈や執行方法が変わることもあります。そのため、遺言執行者は、遺言書の記載内容だけにとらわれることなく、相続財産全体の実態を把握する姿勢で調査・管理を行うことが重要です。

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