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遺言制度は、遺言者の最終意思を尊重することを基本原則としています。そのため、複数の遺言が存在する場合には、原則として後に作成された遺言が優先されることになります。
遺言執行者としては、手元にある遺言書だけを見て執行に着手するのではなく、
その遺言が現在も有効に存続しているか、すなわち撤回されていないか
を確認しなければなりません。
もし既に撤回された遺言に基づいて執行を進めてしまった場合には、本来の権利者との間で紛争が生じる可能性があります。
そのため、遺言執行者にとって、遺言の撤回の有無を確認することは、遺言内容の有効性確認と並ぶ重要な初期業務の一つといえます。
遺言の撤回は、必ずしも「この遺言を撤回する」と明示的に記載されるとは限りません。
そのため、遺言執行者は次のような点を確認する必要があります。
(1)後の遺言が存在しないか
遺言者は、生前であればいつでも自由に遺言を撤回し、又は新たな遺言を作成することができます。そのため、現在確認している遺言より後に作成された遺言が存在しないかを調査する必要があります。
具体的には、
・公証役場における公正証書遺言の有無
・法務局の自筆証書遺言保管制度の利用状況
・自宅や貸金庫等に保管された遺言書の有無
などを確認します。
(2)遺言後の財産処分がないか
遺言作成後に対象財産が売却されている場合などには、法定撤回が成立する可能性があります。そのため、不動産の登記事項証明書や預貯金の取引履歴なども確認し、
遺言内容と実際の財産状況に矛盾がないかを調査することが重要です。
(3)遺言書が破棄されていないか
遺言者自身が故意に遺言書を破棄した場合には、撤回とみなされることがあります。
遺言書の保管状況や発見状況についても確認しておく必要があります。
民法は、明示的な撤回の意思表示がなくても、一定の事実が生じた場合には遺言を撤回したものとみなす制度を設けています。これを「法定撤回」といいます。
主なものは次のとおりです。
前の遺言と後の遺言の内容が矛盾する場合には、その抵触する部分について後の遺言によって
撤回されたものとみなされます(民法第1023条第1項)。
例えば、
【先の遺言】「A土地を長男に相続させる」
【後の遺言】「A土地を次男に相続させる」
という場合には、A土地に関する部分については後の遺言が優先されます。
もっとも、矛盾しない部分については引き続き効力を有します。
遺言の内容と、その後に行われた生前処分が矛盾する場合も、遺言は撤回されたものとみなされます(民法第1023条第2項)。
例えば、
「A土地を長男に相続させる」
という遺言を作成した後に、
その土地を第三者へ売却した場合には、当該遺言は撤回されたものとみなされます。
遺言者が自ら財産を処分した以上、
その財産について、以前の遺言を維持する意思はないと考えられるためです。
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、
その破棄した部分について、遺言を撤回したものとみなされます(民法第1024条前段)。
例えば、
・遺言書を破り捨てる
・焼却する
・シュレッダーにかける
などの行為がこれに該当します。
もっとも、
単なる紛失や自然損耗では足りず、遺言者本人による故意の破棄であることが必要です。
遺言者が遺贈の目的物を故意に破棄した場合も、
その部分については、撤回したものとみなされます(民法第1024条後段)。
例えば、
特定の絵画を遺贈する旨の遺言を作成した後、その絵画を自ら廃棄した
ような場合です。この場合には、その目的物に関する遺贈は効力を失うことになります。
遺言が撤回されると、その撤回された部分については効力を失います。
したがって、遺言執行者は撤回された内容を前提として執行を行うことはできません。
また、遺言を撤回する権利は放棄することができません(民法第1026条)。
これは、遺言者が常に自由に最終意思を変更できるようにするためです。
一度撤回された遺言は、原則として復活しません(民法第1025条本文)。
例えば、
・第1遺言 → 第2遺言によって撤回
・その後、第2遺言をさらに撤回
という場合であっても、第1遺言が当然に復活するわけではありません。
もっとも、撤回行為自体が錯誤、詐欺又は強迫によるものであった場合などには、
例外的に撤回の効力が否定される余地があります(民法第1025条ただし書)。
したがって、複数の遺言が存在する事案では、単に作成日の先後だけで判断するのではなく、
それぞれの遺言がどのような経緯で作成されたのかについても確認が必要となります。
遺言の撤回は、後の遺言書の存在だけでなく、生前の財産処分や遺言書の破棄などによっても
生じることがあります。
そのため、遺言執行者は遺言書そのものだけを見るのではなく、不動産の売却履歴、預貯金の
状況、財産管理の経緯なども含めて総合的に確認することが重要です。
遺言執行の出発点は、「どの遺言が最終的に有効なのか」を正確に見極めることにあるといえるでしょう。
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