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不動産の遺言執行においては、不動産の遺贈(受遺者が相続人以外の場合を含む)と、
特定財産承継遺言(「相続させる」旨の遺言)とで、実務上の取扱いが大きく異なります。
(1)遺贈の場合
遺贈者(遺贈により財産を譲り渡す人)から受遺者(遺贈により財産を取得する人)へ
名義を移転するため、所有権移転登記手続を行います。
この登記手続は、受遺者と遺言執行者の共同申請によって行います。
(2)特定財産承継遺言の場合
令和元年(2019年)7月1日施行の改正民法により、
遺言執行者は「対抗要件を備えるために必要な行為」を行う権限を有する
ことが明文化されました(民法第1014条第2項)。
もっとも、登記手続については、改正民法の適用の有無によって取扱いが異なります。
①令和元年6月30日以前に作成された遺言
ア.登記申請権限
令和元年6月30日以前に作成された特定財産承継遺言の執行については、
改正前民法が適用されるため、遺言執行者には登記申請権限がありません。
そのため、受益相続人が単独で相続登記を申請します。
②令和元年7月1日以降に作成された遺言
ア.登記申請権限
令和元年7月1日以降に作成された特定財産承継遺言の執行については、
改正民法が適用されるため、遺言執行者は、受益相続人のために対抗要件を具備する権限を
有し、単独で登記申請を行うことができます。
また、従来どおり受益相続人自身も単独申請が可能です。
そのため、
・遺言執行者による登記申請
・受益相続人による登記申請
のいずれかによって登記を行います。
遺贈の目的不動産が、遺言作成後に受遺者以外の者へ譲渡・登記された場合です。
譲渡の時期によって処理が異なります。
(1)遺言作成後から相続開始前までに譲渡された場合
遺贈は撤回されたものとみなされます(民法第1023条第2項)。遺言の内容と抵触する生前処分がなされた場合、その抵触する部分については遺言を撤回したものと扱われるためです。
したがって、受遺者は当該不動産を取得できません。
(2)相続開始後から遺言執行前までに譲渡された場合
①譲渡先が「共同相続人」である場合
相続開始後、遺言執行者が存在するにもかかわらず相続人が行った処分行為は無効です(民法第1013条第1項、第2項)。
遺言執行者は、
・相続人への登記を抹消した上で受遺者へ移転登記を行う方法
・真正な登記名義の回復を原因とする移転登記を行う方法
により対応します。
②譲渡先が「第三者」である場合
「遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる」という民法第1012条第2項の適用の有無により取扱いが異なります。適用有無は、相続開始の時期が、
改正民法の施行日である令和元年(2019年)7月1日の前後で異なります。
ア 令和元年6月30日以前に開始した相続
改正前民法が適用されます。受遺者は登記がなくても第三者に対抗できます。
そのため、遺言執行者は、
・第三者名義の所有権移転登記の抹消請求
・受遺者への真正な登記名義の回復による移転登記
を請求できます。
イ 令和元年7月1日以降に開始した相続
改正民法が適用されます。相続人による処分行為は無効ですが、
その無効を善意の第三者に対抗することはできません(民法第1013条第1項、第2項)。
したがって、
第三者が「遺言執行者の存在や権限(財産の管理処分権があること)を知らなかった」などと
主張立証した場合(善意)、遺言執行者は登記抹消等を求めることができない場合があります。
特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)の目的不動産が、
遺言作成後、本来受け取るべき相続人(受益相続人)以外の者に譲渡・登記されてしまった
ようなケースです。
この場合、
・「譲渡・登記がどの時点で行われたか」
・「譲渡・登記されたものが、受益相続人の法定相続分を超えているか否か」
によって処理が異なります。
(1)遺言作成後から相続開始前までに譲渡された場合
遺言者が生前に目的不動産を処分した場合、その部分の遺言は撤回されたものとみなされます(民法第1023条第2項)。したがって、受益相続人は当該不動産を取得できません。
(2)相続開始後から遺言執行前までに移転登記がされた場合
①受益相続人以外の「共同相続人」へ登記された場合
遺言執行者は、
・所有権移転登記の抹消請求
・真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記請求
を行うことができます。
②受益相続人以外の「第三者」へ登記された場合
共同相続人が法定相続分での登記を悪用し、
事情を知らない第三者(買主や差し押さえ債権者など)へ譲渡・登記を移してしまった、
あるいは、債権者に差し押さえられて登記されたケースです。
この場合、令和元年(2019年)7月1日施行の改正民法における
・「法定相続分を超える部分は登記を備えないと対抗できない(民法第899条の2第1項)」
・「善意の第三者に対しては無効を主張できない(民法第1013条第2項)」
の適用の有無によって処理が異なります。
ア 令和元年6月30日以前に開始した相続
改正前民法が適用されます。受益相続人は登記がなくても第三者へ対抗できます。
そのため、遺言執行者は、
・所有権移転登記抹消請求
・真正な登記名義の回復による移転登記請求
を行うことができます。
イ 令和元年7月1日以降に開始した相続
改正民法第899条の2第1項および民法第1013条第2項が適用されます。
受益相続人は法定相続分については第三者に対抗できますが、
法定相続分を超える部分については登記がなければ対抗できません。
そのため、第三者が先に登記を備えた場合には、原則としてその登記の抹消を請求できません。
農地の遺贈においては、
・その遺贈が「包括遺贈」か、「特定遺贈」か
・受遺者(財産をもらう人)が「相続人」か、「相続人以外(第三者)」か
によって、農地法上の扱いと遺言執行者の取るべき対応が大きく異なります。
包括遺贈とは、
「遺産の3分の1を遺贈する」といったように、財産の全部または一部を割合で指定する遺贈で、特定遺贈とは、
「〇〇市〇番の農地を遺贈する」というように、具体的な財産を特定して譲る遺贈です。
(1)農地法上の許可の要否
農地法第3条の許可が必要となるのは、相続人以外への特定遺贈の場合のみです。
それ以外の
・包括遺贈
・相続人への特定遺贈
については許可は不要です。
(2)遺言執行者の対応
許可が必要な場合には、遺言執行者は受遺者と共同して、又は単独で農地法第3条の許可申請を行います。なお、農地の特定財産承継遺言(相続させる遺言)の場合は、相続人への承継となるため、農地法第3条の許可は不要です。
借地権とは、建物所有を目的として他人の土地を使用する権利であり、地上権又は土地賃借権を指します。借りる人を「借地権者」、貸す人を「地主」と呼び、借地権者は地代を払う代わりに、その土地に建てた建物を長期間使い続けることができます。
この借地上の建物が、遺贈又は特定財産承継遺言の目的となっている場合、
この建物と建物に付随する借地権が遺言執行の対象になります。
そして、
借地権(賃借権)を移転する際は、地主(賃貸人)の承諾の要否が重要なポイントとなります。
(1)遺贈の場合
①地主の承諾
相続人以外への特定遺贈は、賃借権の譲渡に該当するため、地主の承諾が必要です。
なお、相続人以外への包括遺贈については見解が分かれています。
②遺言執行者の対応
ア 地主の承諾が得られる場合
・地主から譲渡承諾書を取得します。
イ 地主の承諾が得られない場合
・裁判所へ借地権譲渡承諾に代わる許可(代諾許可)の申立てを行います。
名義変更の手続きは、承諾(又は裁判の確定)を得た後、
借地権(建物がある場合は建物所有権移転登記)を移転します。
③承諾料
地主が借地権の遺贈を承諾する際(又は裁判所から代諾許可を得る際)には、地主に対して
承諾料(名義変更料)を支払うことが一般的です。地主に対する承諾料(名義変更料)は、
一般的に借地権価格の10%前後が目安とされています。
(2)特定財産承継遺言の場合
相続人への承継は包括承継の一種であり、民法第612条の譲渡には該当しません。
したがって、地主の承諾は不要です。
遺言執行者は、
①地主へ承継通知を行う(「遺言により〇〇が借地権を承継しました」)
②地代の支払方法等を確認する
③借地上建物の所有権移転登記を行う
という流れで執行を進めます。
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