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特定財産承継遺言とは、
特定の遺産を、特定の相続人に、「相続させる」旨を定めた遺言、をいいます。
【例】
「長男Aに、○○市所在の土地を相続させる」
「妻Bに、A銀行○○支店の預金を相続させる」
このような遺言は、
判例上、特段の事情がない限り「遺産分割方法の指定」(民法第908条)と解されています。
そのため、遺言者が死亡すると、
対象財産は当然に受益相続人へ承継され、原則として遺産分割協議を行う必要はありません。
特定財産承継遺言の大きな特徴は、相続人間の協議を経ることなく、権利承継が確定する点に
あります。
遺言執行者は、まず次の事項を確認する必要があります。
(1)受益相続人の特定
誰に、どの財産を相続させるのか、を確認します。
氏名や続柄に誤りがないか、対象者を特定できるかを確認することが重要です。
(2)対象財産の特定
不動産、預貯金、株式など、承継対象となる財産を正確に把握します。不動産については
登記事項証明書を取得し、預貯金については金融機関や口座情報を確認します。
(3)受益相続人の生存確認
特定財産承継遺言は、受益相続人が遺言者死亡時に生存していることを前提としています。
そのため、相続開始時に受益相続人が生存しているかを確認する必要があります。
特定財産承継遺言において、財産を承継する者を「受益相続人」といいます。
受益相続人が遺言者より先に死亡した場合には、
特段の事情がない限り、その「相続させる」旨の遺言は失効すると解されています。
したがって、受益相続人の子が代襲相続人であるとしても、その者が当然に当該財産を取得するわけではありません。
【例】
「長男Aに、自宅不動産を相続させる」
という遺言がある場合に、
Aが遺言者より先に死亡したときは、その部分の遺言は原則として失効します。その結果、
当該財産は未分割遺産となり、他の相続人全員による遺産分割協議が必要になります。
このような事態を避けるためには、
「Aが私より先に死亡していた場合には、Aの子Bに相続させる」
といった予備的遺言を記載しておくことが有効です。
改正民法の施行日である令和元年(2019年)7月1日の前後において、
遺言執行者が注意しなければならない点として、第三者に対する対抗要件があります。
不動産の対抗問題では、以下の違いがあります。
【改正前(2019年6月30日以前)】
・登記がなくても、自分の法定相続分を超える部分を含め、第三者に権利を主張できた。
【改正後(2019年7月1日以降)】
・法定相続分を超える部分については、
登記をしなければ第三者(差し押さえ債権者等)に対抗できない(民法第899条の2)。
整理すると、
「特定財産承継遺言の作成日」および「相続開始日」が令和元年(2019年)7月1日以降である場合には、民法第899条の2が適用されるため、登記をしなければ第三者に対抗できません。
これに対し、これらの日付が同年6月30日以前である場合には、民法第899条の2は適用されず、受益相続人は登記をすることなく第三者に権利を主張することができます。
したがって、特定財産承継遺言に係る遺言執行者は、遺言の執行にあたり、
次の点を確認する必要があります。
・相続開始日はいつか(2019年7月1日以降かどうか)
・遺言書の作成日はいつか(2019年6月30日以前か以後か)
改正民法の施行日(2019年7月1日)以降にされた特定財産承継遺言の執行において、預貯金が目的となっている場合、遺言執行者は、預貯金の払戻し請求・預貯金契約の解約申入れをする
権限を有することが明確になっています(民法第1014条3項)。
ただし、解約の申し入れは「預貯金債権の全部」が遺言の目的となっている場合に限られます。
遺言執行者が選任されている場合、相続人が勝手に遺産を処分することは制限されます。
そして、遺言執行者の職務を妨げるような相続人の行為(勝手に不動産を売却する、預金を引き出す等)は、原則として絶対的に無効となります(民法1013条1項)。
ただし、相続人が勝手に売却してしまった相手(第三者)が、遺言執行者がいることを知らなかった場合(善意の第三者)には、その無効を対抗できないケースがあります。
特定財産承継遺言は、遺産分割協議を経ることなく財産承継を実現できる、極めて有用な制度です。もっとも、令和元年改正後は、法定相続分を超える権利取得について第三者対抗要件が必要となったため、不動産については速やかな相続登記が不可欠となっています。
遺言執行者は、受益相続人の生存確認、対象財産の特定、登記や金融機関手続の実施を
迅速に行い、遺言内容を確実に実現することが求められます。
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