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遺言執行者に指定された人が、最初に感じる不安の一つが、
「何から始めればよいのか分からない」ということです。
遺言執行は、単に遺言書の内容どおりに手続きを進めればよい、というものではありません。
相続人の調査、遺言書の確認、財産調査、名義変更など、多くの手続きが相互に関連しており、順序を誤ると手続きのやり直しや相続人との紛争につながることがあります。
また、平成30年の民法改正により、遺言執行者の権限や義務が明確化された結果、
その責任も従来以上に重くなりました。
不適切な執行によって相続人に損害を与えた場合には、損害賠償責任を負う可能性もあります。
そのため、遺言執行者は個々の手続きに着手する前に、まず遺言執行全体の流れを理解し、
自分が今どの段階にいるのか、を常に意識しながら進めることが重要です。
なお、遺言で復任が禁止されていない限り、遺言執行者は行政書士、司法書士、弁護士などの
専門家に業務の全部または一部を委ねることもできます。
自ら執行することが困難な場合には、
早い段階で専門家の支援を検討することも有効な選択肢です。
遺言執行の具体的な内容は、遺言書によって異なりますが、
一般的には次のような流れで進めていきます。
(1)戸籍の収集と法定相続人の確定
最初に行うべき作業は、被相続人の出生から死亡までの戸籍等を収集し、法定相続人を確定することです。
相続人の範囲が確定しないまま執行手続きを進めると、後日判明した相続人から執行の有効性を争われるおそれがあります。
そのため、相続人調査は、その後のすべての執行手続きの前提となる最重要作業といえます。
(2)遺言書の取得と検認・開封
次に、遺言書の存在と内容を正式に確認します。
公正証書遺言であれば公証役場、自筆証書遺言保管制度を利用している場合には法務局において、その有無や内容を確認することができます。
一方、自宅や貸金庫などで保管されていた自筆証書遺言については、
原則として家庭裁判所による検認手続きが必要となります。
検認前に、勝手に開封すると過料の対象となる場合があるため注意が必要です。
(3)遺言内容と有効性の確認
遺言書を取得した後は、その内容を十分に確認します。
遺言執行者は遺言の内容を実現することを職務とするため、誰に何を承継させるのか、
どのような義務が課されているのかを正確に把握しなければなりません。
また、遺言が法律上の要件を満たしているか、解釈上の問題がないか、についても確認します。
執行不能な内容や無効となる可能性がある事項を事前に把握することで、後の紛争を予防することができます。
(4)遺言執行者の就任と遺言内容の通知
遺言執行者が就任を承諾した後は、相続人に対して遺言執行者に就任したこと、
および遺言の内容を通知します。
現行民法では、遺言執行者は就任後「遅滞なく」、
遺言の内容を相続人に通知しなければならないと定められています。
これは、相続人が自己の権利関係を早期に把握できるようにするためです。
(5)遺言の撤回の有無と遺留分侵害の確認
執行に着手する前に、その遺言が被相続人の最終意思であることを確認します。
複数の遺言書が存在する場合には、
新しい遺言によって古い遺言が撤回されている可能性があります。
また、遺言によって遺留分が侵害されている場合には、
後日、遺留分侵害額請求が行われる可能性もあります。
そのため、執行の前提となる法的リスクを整理しておくことが重要です。
(6)相続財産の調査と管理
続いて、相続財産の内容を調査し、その管理を行います。
預貯金、不動産、有価証券、自動車などの積極財産だけでなく、借入金や未払金などの消極財産についても把握しなければなりません。
また、空き家の管理や預金口座の保全など、
財産価値の毀損を防ぐための措置を講じることも遺言執行者の重要な職務となります。
(7)相続財産目録の作成・交付
財産調査が完了したら、調査結果を基に相続財産目録を作成します。
相続財産目録は、遺言執行の対象となる財産を明確にするとともに、相続人に対して財産状況を報告するための重要な資料です。
遺言執行者は受任者としての立場から相続人に対する説明責任を負っており、
相続財産目録の作成・交付は、その責任を果たすための基本的な手続きとなります。
(8)個別の遺言執行手続の実施
相続人調査や財産調査などの準備が整った後は、いよいよ遺言の内容を具体的に実現するための執行手続に着手します。
不動産の相続登記や遺贈登記、預貯金の解約・払戻し、有価証券の名義変更、
自動車の移転登録、保険金受取人変更の実現、認知や推定相続人の廃除など、実際に行う手続は遺言の内容によって異なります。
遺言執行者は、遺言者の最終意思を実現するため、法律や遺言の定めに従いながら、
これらの手続を適切に進めていくことになります。
(9)任務終了の報告と遺言執行の完了
すべての執行手続が終了した後は、その結果を相続人等に報告し、必要に応じて関係書類を引き渡します。
遺言執行者は、相続財産の管理・処分の経過や執行結果について説明責任を負っており、
任務の終了時には執行内容を明確にしておくことが重要です。
そして、
遺言によって求められたすべての手続が完了した時点で、遺言執行者の任務も終了します。
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